「何も教えてはいけない」
最近の発達相談で出会ったお子さんの話です(親御さんの許可を得て紹介しています)。
そのお子さんは年中さんくらいの女の子。発音がやや不明瞭ですが、活発におしゃべりする明るい子でした。
でもその子のお母さんの話では、1年ほど前にABAを始める前は、その子にはことばが全くなかったそうです。
その頃お母さんは、地域で人気のある小児神経科の専門医を継続的に受診していました。その先生(K先生としましょう)は、おかあさんに「何も教えてはいけない。何かを無理にさせようとしてはいけない」と、いつも言っていたそうです。
言葉に関しても、「出ない言葉を無理に言わせようとすることは本人にストレスになるのでさせてはいけない」「ことばは一生話せなくても、言いたいことをパソコンで入力してそれでコミュニケーションを取る方法などもあります」と言われたそうです。
お母さんが「外を歩く時、手を繋ごうとしても一人で走って行ってしまうんです」と相談すると、K先生は、「親子の愛着障害が原因です。お母さんが大好きだったら、お母さんの言うことに従ってくれるはず」とおっしゃり、お母さんに、「お子さんを抱っこしてみて」と言ったそうです。
お母さんが抱っこしようとすると、娘さんは嫌がって離れようとしました。するとK先生は、「ほら、信頼関係がないから、離れて行ってしまうんです。お母さんをご飯を作ってくれるお手伝いさんだと思ってるんですよ」とおっしゃったそうです。
お母さんはK先生に言われたとおりに、何かを無理にさせたり、言葉を言わせようとするのは避け、ひたすらお子さんの後ろにぴったりくっついて、お子さんが何か遊び始めたら、すぐさま必死でその遊びに参加するようにしました(そうするようにK先生に言われていたので)。でも、お子さんの状態は一向に変わりませんでした。
お母さんはK先生のおっしゃることに納得がいかず、インターネットや本を通じて調べるうちに、つみきの会にたどり着きました。そして「こんな方法があったんだ!」とすぐにテキストを取り寄せて、自宅でのセラピーを始めたそうです。
お子さんはセラピーを始めた当初は一言も話せませんでしたが、セラピーを続けるうちにどんどん言葉を覚え、1年近くたった今では、自分の要求や気持ちを言葉で表現してくれるようになり、簡単な会話もできるようになったそうです。
「話すことを教えることは本人のストレスになるどころか、娘はとてもうれしそうに言葉を使っています。私は、娘は本当は話したかったんだと思います。でも話す方法を知らなくて、それをセラピーで教えてあげることで話せるようになり、言葉で他人とコミュニケーションをとれることの喜びを知ったんだと思います」
お母さんは、私に下さったお手紙の中で、そう書いていらっしゃいます。
私も、自分の娘が自閉症と診断された頃、臨床心理士の先生に、「無理に何かをさせようとしてはいけません」と言われました。あれから20年が経ち、「自閉症は親の愛情不足が原因ではなく、生まれながらの脳の障害なのだ」ということは、かなり知識として普及してきたと思うのですが、まだ地域によっては、このK先生のような専門家が幅を利かせているようです(そのお母さんの話では、K先生の外来はいつも患者さんでいっぱいだったそうです)。
確かにABAセラピーをしたからと言って、自閉症のお子さんがみな話せるようになるわけではありません。でもこのような専門家の先生が、誤った見立てに基づいて、最初からお子さんがことばを話せるように可能性を摘んでしまっているのは、大きな問題ではないでしょうか。
言葉だけがコミュニケーションではない。それは事実です。しかし言葉が、われわれ人間にとって最も便利で一般的なコミュニケーションツールであることも事実でしょう。その獲得の可能性を最初から否定してしまうことは、そのお子さん、そしてその親御さんからとても大事な財産を奪ってしまうことになります。
誰だって、我が子に「ママ」と、あるいは「パパ」と言われたい。そう願わない親がいるでしょうか。専門家の皆さんには、その願いを最初から否定するような子育て指導をしないようにお願いしたいと思います。
(藤坂)
そのお子さんは年中さんくらいの女の子。発音がやや不明瞭ですが、活発におしゃべりする明るい子でした。
でもその子のお母さんの話では、1年ほど前にABAを始める前は、その子にはことばが全くなかったそうです。
その頃お母さんは、地域で人気のある小児神経科の専門医を継続的に受診していました。その先生(K先生としましょう)は、おかあさんに「何も教えてはいけない。何かを無理にさせようとしてはいけない」と、いつも言っていたそうです。
言葉に関しても、「出ない言葉を無理に言わせようとすることは本人にストレスになるのでさせてはいけない」「ことばは一生話せなくても、言いたいことをパソコンで入力してそれでコミュニケーションを取る方法などもあります」と言われたそうです。
お母さんが「外を歩く時、手を繋ごうとしても一人で走って行ってしまうんです」と相談すると、K先生は、「親子の愛着障害が原因です。お母さんが大好きだったら、お母さんの言うことに従ってくれるはず」とおっしゃり、お母さんに、「お子さんを抱っこしてみて」と言ったそうです。
お母さんが抱っこしようとすると、娘さんは嫌がって離れようとしました。するとK先生は、「ほら、信頼関係がないから、離れて行ってしまうんです。お母さんをご飯を作ってくれるお手伝いさんだと思ってるんですよ」とおっしゃったそうです。
お母さんはK先生に言われたとおりに、何かを無理にさせたり、言葉を言わせようとするのは避け、ひたすらお子さんの後ろにぴったりくっついて、お子さんが何か遊び始めたら、すぐさま必死でその遊びに参加するようにしました(そうするようにK先生に言われていたので)。でも、お子さんの状態は一向に変わりませんでした。
お母さんはK先生のおっしゃることに納得がいかず、インターネットや本を通じて調べるうちに、つみきの会にたどり着きました。そして「こんな方法があったんだ!」とすぐにテキストを取り寄せて、自宅でのセラピーを始めたそうです。
お子さんはセラピーを始めた当初は一言も話せませんでしたが、セラピーを続けるうちにどんどん言葉を覚え、1年近くたった今では、自分の要求や気持ちを言葉で表現してくれるようになり、簡単な会話もできるようになったそうです。
「話すことを教えることは本人のストレスになるどころか、娘はとてもうれしそうに言葉を使っています。私は、娘は本当は話したかったんだと思います。でも話す方法を知らなくて、それをセラピーで教えてあげることで話せるようになり、言葉で他人とコミュニケーションをとれることの喜びを知ったんだと思います」
お母さんは、私に下さったお手紙の中で、そう書いていらっしゃいます。
私も、自分の娘が自閉症と診断された頃、臨床心理士の先生に、「無理に何かをさせようとしてはいけません」と言われました。あれから20年が経ち、「自閉症は親の愛情不足が原因ではなく、生まれながらの脳の障害なのだ」ということは、かなり知識として普及してきたと思うのですが、まだ地域によっては、このK先生のような専門家が幅を利かせているようです(そのお母さんの話では、K先生の外来はいつも患者さんでいっぱいだったそうです)。
確かにABAセラピーをしたからと言って、自閉症のお子さんがみな話せるようになるわけではありません。でもこのような専門家の先生が、誤った見立てに基づいて、最初からお子さんがことばを話せるように可能性を摘んでしまっているのは、大きな問題ではないでしょうか。
言葉だけがコミュニケーションではない。それは事実です。しかし言葉が、われわれ人間にとって最も便利で一般的なコミュニケーションツールであることも事実でしょう。その獲得の可能性を最初から否定してしまうことは、そのお子さん、そしてその親御さんからとても大事な財産を奪ってしまうことになります。
誰だって、我が子に「ママ」と、あるいは「パパ」と言われたい。そう願わない親がいるでしょうか。専門家の皆さんには、その願いを最初から否定するような子育て指導をしないようにお願いしたいと思います。
(藤坂)
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