サンフランシスコ見学報告(2)
今回の見学で訪問したもう一つのエージェンシーは、CVAP(セントラルバレー・オーティズムプロジェクト)というところです。こちらはロバース博士のお弟子さん、アメリン=ディッケンズさんが代表をされていて、やはり週35-40時間の本格的な早期集中型ABAを実施しています。
私たちはモデストの隣町にあるストックトンという町のCVAPの支部を訪問し、そこのクリニカルディレクターのデニース・パジットさんからお話しを聞きました。
CVAPはケンダルセンターと違って、ロバースの方式を踏襲し、原則としてホームベース、つまり家庭訪問型のセラピーを行っています。デニースさんによると、その方が親訓練がしやすいから、とのことでした。
CVAPで実施しているEIBIは、3才未満の子どもに週6-15時間、3才に達したら、できるだけ早く週35-4時間に移行する、とのことです。その場合、子どもに健常児の集団に入る準備ができたら、午前中セラピストのシャドー付きで外部のプリスクールに通わせ、午後、1対1のセラピーをする、という流れは、ケンダルセンターと基本的に同じです。ただCVAPでは午後のセラピーは基本的に家庭で行います。
もっともCVAPでもセンターでのABAを行っていないわけではなく、家庭に日中保護者がいられない場合や、家庭で問題行動がおさまらない場合には、センターに通わせてセラピーをしているとのことでした。私はロバース直系のエージェンシーではもっとホームセラピーにこだわっていると思っていたので、意外でした。
セラピーの資金は、半数の子どもは州の公費で、残り半数は医療保険によって賄われているそうです。ただここではなぜか、契約している医療保険会社がプリスクールでのシャドーに保険を支払わず、やむなくそういう子どもにはシャドーなしで午前中プリスクールに通わせ、午後のみ家庭ないしセンターで週20時間のABAをしている、とのことでした。そのため、週35-40時間のEIBIを受けている子どもは、州が費用を賄っている子どもたちの一部で、CVAPの未就学の子どもたち全体の約3割にとどまるとのことです。
ここでもセンター及び家庭でのセラピーを見学させていただきました。CVAPがケンダルセンターと違うのは、
・家庭でのセラピーが主だ、ということ。
・センターでのセラピーでも大部屋に3-5組、ということはなく、せいぜい2組だったということ。
・ロバース系の特徴として、誤反応に対して軽く「NO」ということ(反ロバース派からは「NO-NO-プロンプト」と言われてよく批判されていますが)。
・問題行動に対して、時には消去も使っていたこと(とはいえタイムアウトは一度も見ませんでしたし、一度、子どもが机の上からさらに棚の上に登ってしまったときも、「OK、待つよ」と言って無理に降ろそうとしなかったのは、「ずいぶんゆるいな」と驚きました)。
・遊び時間にケンダルセンターほど絶え間なく子どもに働きかけないこと。
などです。
セラピーは、1シッティング(いすにすわらせて立たせるまでの間)に3-5試行して、30秒~2分ほど遊ばせます。このサイクルを繰り返し、50分したら10分の大休憩(ブレイクタイム)です。ブレイクタイムには、家庭ではセラピールームから出して、親のところに行かせるそうです。センターでは5分が構造化された遊び、5分が自由遊びだそうです。この繰り返しで、一日7時間程度のセラピーを行います。もっとも先ほども触れたように、週35-40時間のEIBIを受けている3-5才の子どもの多くは午前中、プリスクールに通っているので、このパターンの個別セラピーを受けるのは1日3-4時間、週20時間程度、ということになります。
強化子はケンダルセンターでもCVAPでもおもちゃやお菓子を使っていました。どちらのエージェンシーも、たいてい一試行ごとに、あらかじめ子どもに強化子を選ばせていました(例えば車のおもちゃとしゃぼん玉を見せて、「どっちにする?」)。これはモチベーションを高めるための工夫の一つです。
ただケンダルセンターのセラピストが高度な訓練を受けて、非常に集中的に子どもに関わり、子どもの集中度も高かったのに対して、CVAPのセラピストはどこかゆるやかな印象を受けました。子どもたちも、セラピストがおうちのおもちゃを出して「遊んで」と言っても、おうちで遊ばずにその周りをくるくる回っていたり(それをセラピストが止めようともしません)、先ほども触れたように、子どもが棚の上に登ってしまったり、と、子どものコンプライアンスもケンダルセンターほどよくはありませんでした。
ではCVAPはケンダルセンターほどの治療効果を上げていないのか、というと、実は逆です。この二つのエージェンシーはどちらも自分たちのセラピーの結果を学術論文で公表しているのですが、その結果はむしろCVAPの方がリードしているのです。
2006年にアメリン=ディッケンズさんたちが公表した論文*によると、CVAPで1才半~3才半の自閉症児21人に週35-40時間のセラピーを3年以上施したところ、平均IQは62→87へと上昇し、比較した非ABA群との間で3年後も有意差が認められました。さらに21人中6人(29%)が付き添いなしで小学校普通学級に入学しました。
*Cohen, Amerine-Dickens & Smith, (2006) Early Intensive Behavioral Treatment : Replication of the UCLA Model in a Community Setting, Developmental and Behavioral Peiatrics, 27.2.
一方、ケンダルセンターも2005年に論文を公表していています*。それによると、29人の自閉症児(平均31カ月)に3才未満は週25-30時間、3才以降は週35-40時間のセラピーを実施した結果、セラピー開始1年後に認知能力指数が20ポイント以上の伸びを示し、非ABA群との間で有意差が出たことを報告しています。しかしその後2014年に公表された追跡調査**では、治療開始2年目以降、各種指数の伸びが停滞し、3年後に非ABA群との有意差がなくなってしまったとのことです。
*Howard, Sparkman, Cohen, Green and Stanislaw, (2005) A Comparison of intensive behavior analytic and eclectic treatments for young children with autism, Research in Developmental Disabilities 26 359-383.
**Howard, Stanislaw, Green, Sparkman, Cohen, (2014) Comparison of behavioral analytic and eclectic early interventions for young children with autism after three years, Research in Developmental Disabilities, 35,12, 3326-3344.
この差がどこから来たのか。一つ考えられるのはセンターベースとホームベースの差。後者の優位性ということでしょう。ロバースは常に親のセラピーへの参加が非常に重要だと強調していました。デニースさんにも「EIBIが効果を上げるために何が重要だと思いますか」とお聞きしたところ、一番に「親の関与(parent's involvement)」を挙げておられました。
家庭でセラピーをすることによって、親がエージェンシー任せにならず、自分でもセラピーの成果を日常生活に般化させようとします。それがCVAPにおいて子どもの進歩を停滞させず、2年後、3年後も改善を継続させた大きな要因ではないか、と思うのです。
私たちはモデストの隣町にあるストックトンという町のCVAPの支部を訪問し、そこのクリニカルディレクターのデニース・パジットさんからお話しを聞きました。
CVAPはケンダルセンターと違って、ロバースの方式を踏襲し、原則としてホームベース、つまり家庭訪問型のセラピーを行っています。デニースさんによると、その方が親訓練がしやすいから、とのことでした。
CVAPで実施しているEIBIは、3才未満の子どもに週6-15時間、3才に達したら、できるだけ早く週35-4時間に移行する、とのことです。その場合、子どもに健常児の集団に入る準備ができたら、午前中セラピストのシャドー付きで外部のプリスクールに通わせ、午後、1対1のセラピーをする、という流れは、ケンダルセンターと基本的に同じです。ただCVAPでは午後のセラピーは基本的に家庭で行います。
もっともCVAPでもセンターでのABAを行っていないわけではなく、家庭に日中保護者がいられない場合や、家庭で問題行動がおさまらない場合には、センターに通わせてセラピーをしているとのことでした。私はロバース直系のエージェンシーではもっとホームセラピーにこだわっていると思っていたので、意外でした。
セラピーの資金は、半数の子どもは州の公費で、残り半数は医療保険によって賄われているそうです。ただここではなぜか、契約している医療保険会社がプリスクールでのシャドーに保険を支払わず、やむなくそういう子どもにはシャドーなしで午前中プリスクールに通わせ、午後のみ家庭ないしセンターで週20時間のABAをしている、とのことでした。そのため、週35-40時間のEIBIを受けている子どもは、州が費用を賄っている子どもたちの一部で、CVAPの未就学の子どもたち全体の約3割にとどまるとのことです。
ここでもセンター及び家庭でのセラピーを見学させていただきました。CVAPがケンダルセンターと違うのは、
・家庭でのセラピーが主だ、ということ。
・センターでのセラピーでも大部屋に3-5組、ということはなく、せいぜい2組だったということ。
・ロバース系の特徴として、誤反応に対して軽く「NO」ということ(反ロバース派からは「NO-NO-プロンプト」と言われてよく批判されていますが)。
・問題行動に対して、時には消去も使っていたこと(とはいえタイムアウトは一度も見ませんでしたし、一度、子どもが机の上からさらに棚の上に登ってしまったときも、「OK、待つよ」と言って無理に降ろそうとしなかったのは、「ずいぶんゆるいな」と驚きました)。
・遊び時間にケンダルセンターほど絶え間なく子どもに働きかけないこと。
などです。
セラピーは、1シッティング(いすにすわらせて立たせるまでの間)に3-5試行して、30秒~2分ほど遊ばせます。このサイクルを繰り返し、50分したら10分の大休憩(ブレイクタイム)です。ブレイクタイムには、家庭ではセラピールームから出して、親のところに行かせるそうです。センターでは5分が構造化された遊び、5分が自由遊びだそうです。この繰り返しで、一日7時間程度のセラピーを行います。もっとも先ほども触れたように、週35-40時間のEIBIを受けている3-5才の子どもの多くは午前中、プリスクールに通っているので、このパターンの個別セラピーを受けるのは1日3-4時間、週20時間程度、ということになります。
強化子はケンダルセンターでもCVAPでもおもちゃやお菓子を使っていました。どちらのエージェンシーも、たいてい一試行ごとに、あらかじめ子どもに強化子を選ばせていました(例えば車のおもちゃとしゃぼん玉を見せて、「どっちにする?」)。これはモチベーションを高めるための工夫の一つです。
ただケンダルセンターのセラピストが高度な訓練を受けて、非常に集中的に子どもに関わり、子どもの集中度も高かったのに対して、CVAPのセラピストはどこかゆるやかな印象を受けました。子どもたちも、セラピストがおうちのおもちゃを出して「遊んで」と言っても、おうちで遊ばずにその周りをくるくる回っていたり(それをセラピストが止めようともしません)、先ほども触れたように、子どもが棚の上に登ってしまったり、と、子どものコンプライアンスもケンダルセンターほどよくはありませんでした。
ではCVAPはケンダルセンターほどの治療効果を上げていないのか、というと、実は逆です。この二つのエージェンシーはどちらも自分たちのセラピーの結果を学術論文で公表しているのですが、その結果はむしろCVAPの方がリードしているのです。
2006年にアメリン=ディッケンズさんたちが公表した論文*によると、CVAPで1才半~3才半の自閉症児21人に週35-40時間のセラピーを3年以上施したところ、平均IQは62→87へと上昇し、比較した非ABA群との間で3年後も有意差が認められました。さらに21人中6人(29%)が付き添いなしで小学校普通学級に入学しました。
*Cohen, Amerine-Dickens & Smith, (2006) Early Intensive Behavioral Treatment : Replication of the UCLA Model in a Community Setting, Developmental and Behavioral Peiatrics, 27.2.
一方、ケンダルセンターも2005年に論文を公表していています*。それによると、29人の自閉症児(平均31カ月)に3才未満は週25-30時間、3才以降は週35-40時間のセラピーを実施した結果、セラピー開始1年後に認知能力指数が20ポイント以上の伸びを示し、非ABA群との間で有意差が出たことを報告しています。しかしその後2014年に公表された追跡調査**では、治療開始2年目以降、各種指数の伸びが停滞し、3年後に非ABA群との有意差がなくなってしまったとのことです。
*Howard, Sparkman, Cohen, Green and Stanislaw, (2005) A Comparison of intensive behavior analytic and eclectic treatments for young children with autism, Research in Developmental Disabilities 26 359-383.
**Howard, Stanislaw, Green, Sparkman, Cohen, (2014) Comparison of behavioral analytic and eclectic early interventions for young children with autism after three years, Research in Developmental Disabilities, 35,12, 3326-3344.
この差がどこから来たのか。一つ考えられるのはセンターベースとホームベースの差。後者の優位性ということでしょう。ロバースは常に親のセラピーへの参加が非常に重要だと強調していました。デニースさんにも「EIBIが効果を上げるために何が重要だと思いますか」とお聞きしたところ、一番に「親の関与(parent's involvement)」を挙げておられました。
家庭でセラピーをすることによって、親がエージェンシー任せにならず、自分でもセラピーの成果を日常生活に般化させようとします。それがCVAPにおいて子どもの進歩を停滞させず、2年後、3年後も改善を継続させた大きな要因ではないか、と思うのです。
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