つみき通信

このブログは、つみきの会の各支部リーダーを始め、理事、事務局スタッフなど、つみきの会の活動を支えるスタッフたちからのお便りをお届けするものです。ぜひ、時々お立ち寄りください。

PRTへの反論

年末年始にケーゲル夫妻の「The PRT Pocket Guide」(2012)を読み始めたのですが、第一章のDTTに関する記述があまりにも一方的で、頭に来ています。
この本はPRTのコンパクトな紹介本として、いずれ日本でも出版されるでしょうから、あらかじめ反論しておきたいと思います。

ABAについてよくご存じない方のために予め説明しておきますと、自閉症早期療育法としてのABAにもいくつかの流派があります。
DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)は1960年代にロバース博士らが開発した方法で、いわば自閉症に対するABAセラピーの元祖です。古典的ABAといってもいいでしょう。セラピスト主導で、セラピールームでいすにすわらせるなどしてセラピストと向かい合い、短い試行を断続的に反復して集中的なトレーニングを行う、といった特徴があります。

ロバース博士はこの方法で、2~3才の自閉症児19人に、平均週40時間の1対1のセラピーを2年以上に渡って施し(ただしセラピー開始から半年~1年経って順調に伸びた子は健常児の集団にシャドー付きで入れ、その分、自宅でのセラピーは減らしました)、その結果、19人中9人(47%)が知的に正常になり、かつ小学校普通学級に付き添いなしで入学を認められた、という画期的な成果を1987年に発表しました。

それに対してPRT(ピボタル・レスポンス・ティーチング)はもともとロバース博士の弟子だったロバート・ケーゲル博士が、途中でロバース博士とたもとを分かち、1970年代後半から開発を進めたもので、DTTの欠点の克服を目指しています。現代的ABAの代表格と言っていいでしょう。

PRTを始め、現代的ABAに立つ人たちは、伝統的なロバースのDTTのことを何かにつけて悪口を言うので(ロバースではことばが伸びない、日常生活に般化しない、自発しないなど)、以前から何かの機会に反論したいと思っていました。

私はロバース博士の直接的な弟子ではありませんが、ロバース博士のテキスト「ミーブック」を精読し、付属ビデオを何度も見て、なるべくその通りのセラピーを心がけてきました。ですから基本的にDTT派と言っていいでしょう。

ただし、初期のロバース博士は、セラピー中の子どもの妨害行動(癇癪、攻撃など)に対して、「ノー」と大きい声で叱り、太ももをぴしゃりとたたく、という罰を使っていました。しかし後にそれをやめて、妨害行動には主に消去で対処するようにした、と付属ビデオの解説に書いてありました。そこで私もつみきの会の指導に当たってはそのようにアドバイスしています。罰を使うこともありますが、ほとんどはタイムアウトなどの消極的罰(ほうびを取り上げる罰)で、うちのセラピストが叱ったりたたいたりすることは決してありません。

週40時間というのは、親御さんが一人で担うには長すぎる時間で、ほとんどの場合質が保てないし、途中でバーンアウトしてしまうので、各自の能力や事情に合わせて一日1~3時間程度のセラピーをお勧めするようにしています。

昨年、ロサンジェルスに行ってDTT派に属する他エージェンシーのセラピーを見学してきました。そこは実際に週30~40時間を複数のセラピストがチームを組んで行っていたのですが、一回の試行数がとても少なく(せいぜい10数試行)、休憩の方が長いくらいだったので、子どももリラックスしているようでした。われわれはもっと少ない時間数でやっているので、もう少し一回の試行数が多いですが、それでも5分に一度は席を立たせるようにアドバイスしています。

このように現代のDTT派はもう強い罰を使っているわけではありませんし、それぞれその後のABAの研究成果を取り入れて、改良を加えています。

前置きが長くなりました。ケーゲル夫妻がそのDTTについて何と言っているかというと、まず繰り返し出てくるのは、「この方法は効く。しかし進みが遅い」という表現です。ロバースのDTTはどこよりも優れたエビデンスを出しているので、さすがにそれは否定できないのでしょう。しかし週40時間もかけている割に、課題の進み方が遅い、しかも大変な労力がかかる、というのです。

一章の冒頭に出てくる仮想例では、4才の男の子がDTT派のエージェンシーによって一日6時間のセラピーを1年余り受けた結果、6時間の大半を、30分に一度の短い休憩だけでいすにすわりつづけられるようになり、課題としては動作模倣ができるようになり、約30の単語が言えるようになった、しかし進みがあまりに遅いので、ご両親がケーゲル博士の研究所の門をたたいた、ということになっています。

30分に一度のショートブレイクだけで6時間すわらせ続ける?そんなエージェンシーが実在するでしょうか。それに1年間のセラピーでやっと動作模倣と単語30? 
確かに重い子の中には最後まで言葉が出ない子もいます。でもほとんどの場合、1日1,2時間のセラピーでも、最初の数か月で動作模倣と音声指示くらいはできるようになるものです。速い子では数か月のうちに言葉もどんどん出てきます。元々言葉のある子の場合は、どんどん先に課題を進めて、二、三語文や会話に持って行くことができます。半年から一年で、健常の子とほとんど見分けがつかなくなる子だっているのです。

「DDTが遅い?」私はそうは思いません。むしろ逆です。他の現代派のABAセラピストが下手をしたら子どもと遊ぶだけで数か月を費やすのに対して、DTTではその間にどんどん課題を進め、できることを増やしていきます。「DTTは課題の進みが速い」というのが私の印象です。

ケーゲル夫妻は、DTTは子どもが嫌がる、嫌がって逃げたり、攻撃行動に出たりする、とも言っています。

特に頭に来た記述が28ページにあるのですが、そこではケーゲル博士らがPRTを開発して、子どものモチベーションを高めることができるようになった結果、「もう私たちは泣き叫んで柱にしがみつく子どもを、セラピールームに引きずっていく必要がなくなった。子どもたちはセラピストが家に来たのを見ても隠れなくなった」と書かれています。

泣き叫んで柱にしがみつく子どもを引きずっていく?セラピストを見たら隠れる?どこの誰のセラピーのことを言っているんでしょう。

確かにつみきの会(NOTIA)でも、最初のうち、セラピストやセラピーを嫌がる子はいます。しかし大抵はすぐにセラピストが好きになってくれます。だってやさしいし、たくさんほめてごほうびをくれますから。

私が自分の娘をDTTで教えた時も、娘が泣いたのは最初の数日だけでした。あとはむしろ毎日喜んでセラピールームに入っていきました。だってセラピー中はヒントがもらえて、正解したらやさしい声でほめてもらえるし、しばらく頑張ったらいすから離れて、パパのおなかの上に寝転ぶことができるんですから。

それに娘に教えているとき、娘が集中的なDTTの結果、何か新しいことを学ぶことができたときに、心の中に喜びや誇りのようなものを感じていることを、何度も見て取ることができました。いまでも、ピアノで難しいフレーズが弾けるようになると、彼女はとてもうれしそうな笑顔を見せますが、それと同じ笑顔を、DTTセラピーの中で何度も見ることができました。ですから私には「DTTは子どもが嫌がる」という評価が納得できないのです。

ケーゲル夫妻は、PRTはDTTに比べてずっと進度が速く、子どもも楽しい、と言います。

DTTが自閉症児が社会に適応していくうえで必要な個々の行動を逐一教えていく道を選択したために、膨大な時間と労力がかかるのに対して、PRTは「これを教えれば、他の何千という行動が自然と改善する」という「重点領域(pivotal area) 」をいくつか見つけたので、それを教えれば、ずっと少ない時間と労力で、ロバースと同じ結果を達成できる、というのです。

そこで最大の疑問ですが、それではなぜケーゲル博士は、PRTによってロバース博士の1987年の研究に匹敵する成果を発表しないのでしょうか。例えば週10時間程度の短時間のセラピーで、ロバースと同じように19人中9人の子どもが知的に正常になり、小学校普通学級に行けるようになった、という研究を、です。もうPRTが開発されて20年以上が経とうとしているのに。

ケーゲル夫妻は、PRTはたくさんのエビデンスが出ている、と言います。しかしこの本に紹介されている限りでは、ロバースの研究に匹敵するような、介入群と非介入群を分けて行う大規模かつ長期的な比較研究はなされていないようです。

ただ34ページに二つの大規模研究が紹介されていて、一つは数百人の子どもたちにPRTが施され、子どもたちは適応行動尺度で大きな改善を示した、とのこと。もう一つはカナダのノバスコシア州全域でおこなわれているプロジェクトで、子どもたちは標的行動に継続的かつ顕著な改善を示した、とのことです。もちろん結果が出ているのはいいことですが、ロバース博士の研究のような劇的な改善を思わせる表現はどこにもありません。

そこで生じる疑いは、PRTは、その主張とは裏腹に、結局DTTに匹敵する改善をもたらせないのではないか、というものです。PRTがその初期研究がそうであったように、DTTをベースとして、子どものモチベーションを高める工夫にとどまっているうちはよかったのですが、DTTを捨てて、遊びや生活の中の緩やかな介入に移行した時点で、DTTの大切な利点を失ってしまったのではないでしょうか。

藤坂(綾ちゃんパパ)







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コメントしましたが、文字化けしています。すみません。削除お願いします。

興味深い内容の記事をありがとうございます。PRTの事がよくわからず、こちらのサイトにたとりつきました。DTTを排除しちゃっているんですね。私もいろんな事がつっこみどころあるなと思いました。
自然な環境の中で子供の興味を使う事の方がパワフルかもしれませんが、強化子という視点でみれば、NET等で使うnatural reinforcerよりもDTTはpreference assessment 等も使うので、子供が一番好きなContrived reinforcerを使ってプログラムを施行していくので、強化子はPRTより強い場合も多く、またさらに自然な中で強い強化子を見つけるのは案外難しいと思います。もしDTTを嫌がるようであれば、DTTが問題というより、色々な中の1つの理由として、セラピストが強化子を使えてない、強化子として提示しているものがreinforcerになっていないという問題も考えられるかなと。強化しないのであればそれは強化子ではないという意味で。それからShapingなどで子供の行動のレパートリーを増やす場合は、やはり、お菓子等のPrimary Reinforcer を最初は使っていった方がいいと思います。PRTではそういう事ができるか疑問に思いました。

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